春琴抄の映画版「お琴と佐助」
今日は、新宿角川シネマで大映映画女優祭の「お琴と佐助」を観てきました。
私は、谷崎潤一郎の「春琴抄」という物語がとても好きなので、この耽美的な陶酔を純粋に表現している映画を探して、山口百恵主演バージョン、京マチ子主演バージョンと観てきまして、今回が山本富士子主演バージョンの鑑賞となった訳でした。
「春琴抄」は、大阪の有名な商人の家に丁稚奉公に来た佐助と、その家の盲目の美しい娘・お琴の倒錯した愛を描く古典SMです。
このお琴は目が見えなくなってから、自分を腫れ物のように扱う親や周りの人間に不信感を持つようになって、プライドを保ために気が強くドSキャラに育ったわけです。
なので、お琴の身の回りの世話から三味線のお稽古の送り迎えまでしている佐助にもかなりアタリがハードなのですが、佐助はそんなお琴を異常なまでに崇拝していたんですね。
で、三味線の名手であるお琴への憧れから、佐助は奉公人の身でありながら、夜中に押入れに隠れて三味線の練習をするんですが、それを見つけたお琴は、自分が稽古を付けてやるってことになるんです。
そこで、「ご主人様と奉公人」という関係だけでなく、「お師匠さんと弟子」という関係が加わった事で、さらに2人の「主・従」の関係強まるわけです。
どこまで行ってもお琴が雲の上の孤高の存在で、佐助が下という“主従関係”こそがこの物語のポイントです。
盲目のお琴のお世話を全部してあげてるのですから、ともすれば佐助がリードして守ってやるような上の立場になりかねないものを、お琴がワガママでドSで命令口調であることで、お琴が上という立場が守られている。
佐助の三味線が上手くなればなるほど、誰にも手が届かないほどの名手であるお琴に近づいてしまうが、棒でバシバシ佐助を殴りながら厳しくお稽古をすることで、主従の関係が保たれている。
佐助は、美しく、素晴らしい芸事の腕前であるお琴が、いつまでも手の届かない、崇拝し続けられる存在であって欲しい訳です。
そこに佐助の陶酔があるんです。
叩かれれば叩かれるほど、ドSに振り回されれば振り回されるほど、自分には手が届かないような特別な存在であることを強く感じられて、そんな方に仕えている自分が悦びなんですね。
なので、その主従関係を表現するには、お琴役の人は、絶対にナヨナヨと弱い部分を見せちゃいけないんです。
どんなに佐助に優しくされても心を動かされた様子もなく、ドSな鎧でガチガチに身を守っている事で、逆にそれだけ守らなくてはいけない弱い心がその下にあるってことが伝わってくることも関係性の軸となる部分のはず。
でも、今回の山本富士子バージョンも、すぐにナヨナヨしちゃう!!
クライマックスでは、お琴が顔をヤケドして顔が崩れてしまうのですが、その顔を見られたくないと言われた佐助が、自分の両目を針で突いて自ら失明するというシーンがあります。
これも、ただお琴のプライドを守るためだけじゃなく、いつまでも自分より上の、美しいお立場であって欲しい、そんな主従関係、上下関係を守るためだと思います。
なので、その前にナヨナヨして佐助にすがるように弱い立場を取ってしまったら、佐助がわざわざ目を失明までして自分の立場を下げる必要性がなくなっちゃいます。
今回も原作の感動とはちょっと違って残念・・・
でも、素晴らしい俳優陣や音楽や映像を使っても、活字だけの物語を超えられないとしたら、それはそれで春琴抄すごいなって思いました。
原作を横に置けば、お琴役のツンデレ感と、とっても綺麗な顔、佐助の朴訥とした感じがとっても良かったです!
とってもいいキャスティング♪
4月には大映映画の男優映画祭があるようなので楽しみです〜
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