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2021-04-09

スケボーとおじいさん

18歳の春、高校を卒業して大学に入学するまで暇だったので、なぜかスケボーをやろうと思い立って、早朝、近くの広大な公園で練習することにしました。

毎日通ってると、その内お散歩に来るおじいさんと挨拶するようになり、話し混むようになり、しまいにおじいさんのお家に上がり込んでお茶するようになりました。

草が鬱蒼と茂ってる中に建っている、平屋の小さなトタン小屋で、3畳くらいの居間に小さな台所がついてるだけでした。

「男の部屋にいたら怖いだろうから玄関開けておくよ」

と言ってドアに近い方のコタツに私を座らせてくれました。

お茶をしながら、仲間内にいる品の良いおばあさんに惚れているんだけど、ライバルが多いんだよと教えてくれました。

当時、高齢のおじいさんというのは、いたわる対象、中性的な存在で、失礼ながら恋とかする感情もなくなっているんじゃないかと勝手に思ってましたが、男はいつまでも男なんだなぁと思いました。

今考えると、65歳と言っていたけれど、もしかして年齢を若く言ってたのかもしれません。

ドアはコタツから手が届く近さで、風が寒くて閉めたかったけど、おじいさんのそういう気持ちを大切にしたくて、毎回開けっ放しにしていました。

家族の話を聞いたら、奥さんとは昔に離婚して、娘さんからは絶縁されてずっと会ってないのだとか。

おじいさんの唯一の楽しみは、新聞で競馬の予想をしてラジオで中継を聞く事だそうで、毎回新聞を広げて私にその日の予想を楽しそうに1時間半くらいかけて説明してくれるのでした。

ある日突然、おじいさんから、実は家を立ち退かなくてはいけないから、明日引っ越すんだと打ち明けられました。

最後の日の朝、おじいさんは帰る私を家の外まで見送ってくれて、「大学がんばってな」と言ってくれました。

私は今までのお礼の手紙を渡しました。

もしかしておじいさんは私に娘さんを重ねて可愛がってくれてたのかなぁと思いながら、見送るおじいさんに私も振り向いて手を降り返しました。

その後私は、大学が始まったので公園へ行く事もなくなり、刺激的な人たちに出会って毎日を楽しく過ごして、薄情にもおじいさんの事などだんだん忘れていきました。

でも、大人になってからは、春になるとたまに、遠い土地でまた次の一人暮らしを始めた時は寂しかったかなとか、おばあさんには最後告白したのかなとか、娘さんとはあの後会えたのかなとか思い出すようになりました。

おじいさんとのほんの2週間くらいの小さな思い出です。

ちなみに、スケボーは全く上手くなりませんでした。

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