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2017-12-01

○○と言えば

 

(ロンドンのコベントガーデンマーケットという花の市場でクリスマスシーズンになぜか販売されていた恐竜の骨)

 

最近の市場は、クリスマスシーズン真っ只中で、リース用のヒムロ杉やコニファー、松ぼっくりなどが通路にたくさん積んであります。

そんな中で、ちらほら、ザ・春!なイメージのスイートピーも出回っているんです。

私はスイートピーの香りが大好きなので、見つけてはこっそり香りを嗅いで酔いしれています・・・♡

でも、今の時期は絶対に使いません。

 

しばらく前には、花卉新聞(花屋業界の専門紙)で、ひまわりのヴィンセントという品種を夏以外にも使ってもらおうと、ハロウィンの時期にプロモーションイベントを行ったという記事が出ていました。

多分、ひまわりの絵で有名なヴィンセント・ヴァン・ゴッホの名前から取ったひまわりなんでしょうね。

確かにひまわりの黄色やオレンジはハロウィンカラーではありますが・・・。

 

 

生産者の皆さんや花き業界の方々は、花を生ける時期、シーン、目的、品種を増やすことで、業界全体の底上げを図ろうとさまざまな努力と啓発をされています。

でも、私は季節感を失いかねない広げ方だけは、逆に草花の価値を下げることになり、業界全体へのリスクになりかねないのではないかと思っています。

 

かつて、農民は太陰暦や太陰太陽暦だけでなく、地球が太陽の周りを1周する期間を24等分にした「二十四節気」や、花の開花や実の付き方などで季節を知る「植物暦」を農作業の基準にしていたそうです。

 

ケイトウが開花したら、カブの種まきをする

ナツメの実が色づいたら、ごぼうの種まきをする

ケヤキの葉が出たら、こんにゃくの植え付けをする

ボタンが開花したら、ヒエを移植する

 

そんな風に、季節の移ろいと農作業の適切な時期を教えてくれる植物たちは、生活と生業を支える指標となっていました。

 

昔の農家の方だけでなく、現代に生きる私たちだって、

春夏秋冬、道端で見られる植物や、年中行事で見られる象徴的な花たちに触れることを何年も繰り返して大人になっていく内に、草花たちが見せてくれる姿に対して、「お決まりの記憶の蓄積」ができています。

 

沈丁花を見て、ああやっと冬が終わるんだな

紅葉を見て、秋が深まってきたな

というように。

 

これが、沈丁花が1年中咲いていたら、紅葉が1年中見られたら、そう思えるでしょうか?

 

人間というのは、新しいものに興味を持つ一方で、「○○と言えば☓☓」というお決まりのものに安心感を感じるものなのです。

変わらないもの、なじみのものというものは、イコール「身の安全」を動物の本能として感じるからです。

 

そして、「今こういう季節なんだな」と旬を感じるということは、

あっという間に過ぎ去ってしまう1年の中で、過去の後悔や未来への不安から開放されて、「今ここ」に感謝できるということなのです。

 

このように、草花の季節感というものは、暮らしの文化と精神性を豊かにしてくれるものであったはずです。

 

現在では、気候変動で植物の成長は標準通りにはいきませんし、農作物として育てられて花屋にならぶ草花も、花農家さんが開花時期をコントロールしています。

 

だとしても、

春といえば桜

ひまわりといえば夏

秋分の時期は彼岸花

 

というように、

「○○と言えばXX」という、

草花に紐付いている精神性や文化、

あるいは、

精神性や文化に紐付いている草花、

それらの結びつきというのは、長い年月を経て築き上げられた草花の「ブランド」なのです。

 

花は移ろう季節の象徴です。

数ヶ月先に発売される雑誌の撮影などのために早い時期に入手できるということでしたら構わないと思いますが、

世間一般に対して、もっとパイを増やしたいから、業界を底上げしたいからと、あえて季節感の印象を超えた動きをしてしまっては、「○○と言えば」という花ならではの大切なブランド価値を壊したり誤解させることになるでしょう。

 

別に花じゃなくていい

ってことになりかねません。

 

呉服屋さんも同じです。

高いのに着る機会が少ないと売れないからと、「春でも秋でも着られますよ」と、季節が混ざった花の柄の着物を勧められたり、「自宅で洗えるから汚れても大丈夫ですよ」と、ポリエステルの着物を勧められたりします。

でも、例えば雛人形の柄の着物など、1年に1日しか着れないのに、そういうアイテムを持っていて、しかもその日に着物を着れるようなシチュエーションに身を置ける生活をしている、ということが、着物を着る人の粋だったりするのではないでしょうか。

いつでも着られて、汚れてもいいという感覚で着るのなら、着物じゃなくて洋服でいいかもって思われるようになるかもしれません。

 

使用シーンを広げて利用者のパイを広げようという動きが、そのものならではの価値を失いかねない、という同じような例だと思います。

 

草花の価値を守るということで言えば、私たちフローリストが世間にご提供する最後のゲートとなるのですから、心して取り組まないといけないですね。

 

例えクライアントから頼まれたとしても、

「今の時期は不適切です」

「今の時期は入手できません」

と断れるように、自分の立場を作っておかなくてはいけないかもしれませんし、

その代わりに、その信念を貫けるような技量を持ってなくてはいけないですね。

 

そして、つい今までにない新しいことをやりたくなる、つい、美しいものを作りたくなる・・・という欲求とも闘いながら、冷静に判断していかないといけないかもしれません。(自戒・・・)

 

道は遥か遠いですが、草花の価値を守ることとはどういうことか、考えながら進んでいきたいと思います。

 

 

オートクチュール・フラワーブランド「装花TOKYO」

「装花TOKYO」は、店舗を持たないアトリエスタイルのオートクチュール・フラワーブランドです。命ある生花のみを使い、特別なシーンのフラワースタイリングをオーダーメイドでご提供しています。

オーダー内容

商品ディスプレイや撮影用プロップ、プロモーションイベントのフォトブース作りなど、特別なシーンにおいて、草花が持つ命のインパクトと視覚的魅力を活かした空間づくりをサポートしています。

オーダーメニュー 【定期装花/撮影のフラワースタイリング/イベント装花/お祝い花など】
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