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2018-08-22

夏に咲く桜?

夏開催の東京オリパラを桜でおもてなし・・・

先日、「夏に咲く桜」が研究開発されたというニュースがやっていて、ビックリしました。

「夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、日本を象徴する桜で沿道を満開にさせたい」

と生産者の方はおっしゃっていました。

技術的には可能だと思うのでそこに驚いた訳ではないんです。

 

夏や秋に桜が咲かない訳

桜は、単に暖かくなったからといって花を咲かせる訳ではありません。

今の時期でも桜は既に花の蕾がありますが、だからといって暖かい秋に花を咲かせてしまったら、大事な種を作る頃、寒い冬を乗り越えられなくなってしまいます。

なので、冬の寒さを経験しないと花が咲かない仕組みになっているんです。

(具体的には、まだ暖かい内にできる「越冬芽」には、花の開花を抑制する休眠ホルモンの「アブシシン酸」が分泌されているので花は咲かず、その後寒さを体験すると、今度は「ジベルリン」という開花を促進するものが分泌されるので、花が咲く)

 

ニュースでは、大きな冷蔵庫のようなスペースに桜が保管されていたので、もしかしたら、この仕組みを利用して、冷蔵庫の中で冬を経験させて、夏に開花させるのかもしれません。

とにかく、私が驚いたのは、「できた」ことではなく、「お、おお、そこ目指すんだ・・・」という所です。

 

造形美以外の草木の価値

花の価値ってなんだろうって考えるんです。

花の色や形の造形的な美しさも、もちろんあると思うんですが、その他にもパッと思い浮かぶだけで以下のようなものがあります。

 

●セレモニー的価値

退職祝い、授賞式、映画のクランクアップで手渡される花束、スポーツの入賞者へのビクトリーブーケ。

それは花束の中身どうこうよりも、

花束が厳かに手渡される行為や、花束を抱えて大勢に讃えられ、写真を撮られて主役となっているシーンといった儀式的要素に大きな価値があります。

感謝、祝福、賞賛、主役といった意味合いを形づくれるのは、花束ならではです。

リオのオリンピック・パラリンピックでは、ビクトリーブーケが廃止され、ペンケースのようなものが渡されましたが、ペンケースを持って表彰台に立ってもこのセレモニー的な価値は微妙でした。

 

●空間演出的な価値

アパレルブランドの展示会や披露宴、お食事会など、その“場作り”の目的を果たす一つのソリューションとして、花が貢献することも。

立地のイメージから、建築物の織りなす物理的特性、家具や食器、花入れなど、さまざまな要素との調和によって、空間を演出することができます。

 

●象徴的価値

「春といえば桜」、「プロポーズで一生の愛を表すなら赤い薔薇」など、その花が象徴する季節や人の思いなどに価値を感じてもらえるケースも多々あります。

これは、国や地域やコミュニティで長い間かけて確立した文化と歴史が背景にあります。

一方で、「母が好きだったピンクの薔薇」、「おじいちゃんの家の庭に咲いていた花水木」など、パーソナルな思い出と紐付いている事に価値を置いている場合もあります。

 

●生理的価値

千葉大学環境健康フィールド科学センターの調査によると、 花のある部屋では交感神経活動が25%低下し、逆に副交感神経活動が29%上昇することが認められたそうです。そのように、視覚や香りによる緊張緩和、リラックス効果なども草木の一つの価値です。

 

●希少的価値

生産が困難で品数が少ない、調達が困難といった希少性も他の商品と同じように消費者にとっては価値と感じられるでしょう。

 

などなど、他にもたくさん草木の価値はありそうですね。

 

 

日本人が感じる桜の価値

そうすると、桜の価値というのは、上記で言えば、「象徴的価値」というのが大きく占めているような気がします。

実家住まいの時に通学で通っていた桜並木の風景だったり、

自分の子どもが大きなランドセルを背負って入学した日の満開の風景だったり、

別れや出会い、終わりと始まりのある、“春”という限られた季節にある暮らしや思い出と繋がっている花だからこそ、春が来て、また桜を目にする度に、1年の季節の巡りを実感して感慨が深まるものなんじゃないでしょうか。

また春が来たね、と。

 

もし、毎年夏にも桜を見かけるようになってしまったら、桜は春の象徴ではなくなってしまいます。

春という季節に起こるさまざまな思い出との紐付けも崩れてしまうでしょう。

そうしたら、桜の本来の価値は薄れていってしまいます。

 

春ならでは、でなかったら、別の花でもいいじゃんって事になりかねないですよね。

単に、その造形的美しさだけで勝負しなくてはいけなくなったら、他のたくさんの美しい花と競合して選ばれる事が難しくなる。

そうしたら生産者さんだって困るのではないかなって思ってしまうんです。

 

日々、さまざまな花の品種が、より美しく、多様に、長く持つように改良されています。
そんな生産者さんの日々の努力には感謝と敬意の気持ちでいっぱいです。

でもでも、

桜ほど日本人の暮らしと精神に馴染んでいる植物の季節感を人為的にいじってしまうことは、アンタッチャブルなんじゃないのかな・・・

きっとその方なりの考えや信念がおありなのだと思うのですが、そんな事でビックリしたニュースでありました。

 

お客様は、花が持つさまざまな価値に対して対価を払ってくださっています。

人々が草木にどんな価値を感じているのか、考えながら、感じ取りながら、お仕事をしていきたいと思います。

 

(※啓翁桜の枝変わりで四季咲きのものがあって、夏や秋にも咲いてしまうようですが、それは突然変異のようです。)

 

オートクチュール・フラワーブランド「装花TOKYO」

「装花TOKYO」は、店舗を持たないアトリエスタイルのオートクチュール・フラワーブランドです。命ある生花のみを使い、特別なシーンのフラワースタイリングをオーダーメイドでご提供しています。

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