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2020-09-28

先日「サボウル」というスペイン語を友人が教えてくれたのをきっかけに、学生の時に初めてバイトしたボーリング場の「ロサボウル」を思い出した。

スタッフが働く事務所はサビれてアングラな雰囲気が漂っていて、誰が話しかけても一言も口をきかないバイトの男は、パソコンで受付作業をしている右手がないフィリピン人の女性のそばを子どものように片時も離れずお喋りしていた。

地下の暗いロッカー室には、いつも洗濯した雑巾が十数枚干してあって、粉洗剤のいい匂いが充満していた。

ある日バイトに来た私は、小さい頃に読んだ人魚姫の話を思い出してしまい、止まらない涙をどうしようかと思いながらロッカー室に入っていった。

そこには今日からバイトだという亜希子が着替えをしていた。

ショートカットで痩せていて、切れ長の目に血色のない色白で、化粧っけがない。

早口の明るい弾丸トークで笑わせてくれるのに、どうしても儚げで、亜希子の姿だけモノクロに見えるくらい消え入りそうな雰囲気だった。

私は亜希子に急速に惹かれて仲良くなった。

亜希子は15才以上も年上の男性と「どうしてもと言われたから付き合ってる」と言っていた。

一緒に本屋にいくと「ここにある小説はほとんど読んでしまって買う本がない」と言っていた。

ある日、私が尾崎豊を聴いたことがないと言うと、たくさんの曲と歌詞を書いたノート数冊をくれた。

「朝までかかった」と言っていたのに、歌詞を書いたノートは、最後の最後のページまでお手本のような楷書体で少しも乱れていなかった。

ある日、下北沢で亜希子と待ち合わせをした。

13時に駅で待ち合わせをしたのに、30分経っても1時間経っても亜希子は現れなかった。

まだ携帯電話は持ってなかったから、
下北の駅前で突っ立ったまま3時間が経ったけど、私は亜希子と会えるなら何時間でも待てるんだと思った。

ごめーん、寝てた!
と悪びれる様子もなく現れた亜希子と対面した時は、私が亜希子の事をどれだけ好きかを証明できたようで嬉しかった。

母親がやってるというスナックのようなお好み焼き屋さんに忍び込み、
2人でカラオケをした。

「私、今度歌手デビューしないかって話があるの」

そう言って、私の知らない昔流行ったラブソングを歌った亜希子は、とっても大人びていて聴いたことのないくらい美しい声だった。

なぜか亜希子との記憶はそこで途切れている。

ロサボウルも私の方が半年くらいで辞めた気がする。

消え入りそうな亜希子は、もしかして私が見た幻影で、実在しなかったんじゃないかとも思える。

だから、あんなに好きだったのに大人になってふと思い出しても探そうとしなかった。

昔の友人を思い出す時、今でも元気かな、と思うのに、亜希子については「実在しないでくれていいよ」と思ってしまう。

孤独の埋まらなさを諦めてどこか冷めた眼差しで観ているからこそ明るく適当に振る舞ってるような亜希子に、この世の雑味はそもそも息苦しかったような気がしたから。

いや、それとも亜希子は私の中に居るもう1人の自分だったりして。

いやいやいや。

サボウルから思い出したロサボウルの思い出。

ちなみに尾崎豊で好きな曲は「傷つけた人々へ」です。

 

 

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